耳鼻咽喉科・頭頚部外科の情報専門誌「JOHNS」2020年8月号に、解説記事「口腔の感覚異常の病態と治療 口臭症」を執筆しました。
口臭は実際に存在するもので、感覚の異常ではありません。重度の歯周病にかかっていたり、寝たきり状態でべったりと分厚い舌苔が付着していたり、扁桃腺が腫れて赤くなっていたりする場合は、離れていても感じ取れるほどの口臭が発生します。
その一方、会話相手が口臭を感じない人がひそかに口臭に悩んでいることがあります。このタイプの人は、口が乾く、舌がヒリヒリする、苦い味がする、といった症状も自分の口臭が原因で発生していると勘違いしがちです。このような問題を感覚障害ととらえ、その検査法や治療法について解説しました。
この記事は春先に東京医学社から執筆依頼を受けましたが、執筆陣の多くは大学で診療と研究に従事する耳鼻咽喉科医です。歯科からは4篇、解剖学1篇、心療内科1篇、精神科1篇が寄せられています。
人間の五感といえば嗅覚、視覚、触覚、味覚、聴覚です。この順番で脳神経が感じ取る仕組みになっています。口腔内の感覚は触角と味覚ですが、専門的に分類すると触角は非特殊感覚、味覚は特殊感覚に分類されます。また、非特殊感覚は体性感覚(触覚、圧覚、冷覚、温覚、痛覚、深部感覚)と内臓感覚(口腔内にはありません)に分けられます。
痛覚の問題として、舌痛症、舌咽神経痛、三叉神経痛、口腔粘膜炎、舌炎、口内炎、金属アレルギーが取り上げられています。触角の問題としては外傷や手術後の抹消神経麻痺が取り上げられていますが、口腔セネストパチーや口腔乾燥症もここに分類されるでしょう。
私が担当した口臭は嗅覚であり、口腔の問題ではありません。ただし口腔の触角、温覚、痛覚、味覚の異常を自己の口臭と関連付けて考える場合があるという点では、口腔の問題と位置付けることは妥当と考えます。
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