患者の中には、口腔内にう蝕や歯周病といった疾患とは違う、痛みや違和感を訴える方がいる。
最初は歯の問題かと思い、歯科医院を受診し、診察してもらうが、特に異常はないことから治ることのない口腔内症状に不安を感じ、病院を数件受診したり、インターネットで検索を繰り返すことになる。
しかし、症状の改善が見られないと、次第に不安も大きくなっている。
当院では、そういった患者への対応を、歯科医師のみではなく、コメディカルスタッフ全員でかかわるようにしている。そして、患者への症状改善だけでなく、症状への不安を払拭し、安心して通院できるように取り組んでいる。
今回の発表では、当院の身体症状を伴う歯科心身症患者への問診など対応時のポイントと、症例提示を行った。
問診時のポイントとしては、自分はなぜこんな症状が出ているのかわからない、どこに行っても治らない、本当に治るのかと不安が大きいかたがほとんどである。
自分の感じている症状をわかってもらえないという不安から、症状自体が強く出ている場合もみられる。
治療者側が患者の悩みを理解することで、一定の不安解消にもなる。
症状や今までの経緯など、必要事項を漏れなく問診をしていくが、自分の症状を理解してほしいという思いから、こちらが圧倒する勢いのかたも少なくない。
症状や不安が混ざった過去や未来のことについて、訴えられることもあるので、その都度、現在に引き戻すことが必要である。
そして治療者側の大切なことは、その悩みを抱えながら、今までなんとか頑張られてきたことに対する労いである。
これから薬物療法などの治療を開始し、心理面に対しては心理療法を実施することとし、「焦らずに治していきましょう」と治療同盟を結ぶこととした。
今回の症例に対しては、心理療法の森田療法日記指導を実施した。
本症例は症状改善も大切であるが、症状により生活の質(QOL)の低下が顕著にみられ、症状改善の妨げになると考えられた。そのため、早い段階から、心理的介入を行った。
日記には来院時には、語られることのない患者の行動や感情が書かれていた。
患者が行った行動、症状があってもするべきことに取り組めたことに対し、治療者側からコメントを書き込んだ。
現在、症状の大幅な改善はないものの、治療者は患者へ心理面の援助を行いながら、患者自身が、症状があってもいろいろなことに取り組めることを行動により体得した。これにより生活の質の改善が見られたと考察される。
私の立場は公認心理士と歯科衛生士という二つの立場から、患者へ接していたが、どの職種であっても、患者の心に寄り添うことができれば、職種は関係ないと思われる。
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