3)口臭に対する不安への対応
自己の口臭の程度がどの程度であるか、患者自身で的確に把握することは不可能なことである。自己の口臭が周囲の人間に感知されているのかどうか、感知されているとすればどの程度のものとしてであるのかを知ることが難しいために不安が増幅される21)。周囲の誰かに患者の口臭が感知できるかを尋ねればその答えは即座に分かることであるが、どうしてもできないという者が多い。著者らの口臭外来では、来院の度に担当医が鼻で至近距離から口の臭いを嗅いで精密に判定する。自分の口臭の有無と程度を専門家が調べてくれるということは患者にとって大きな意味があり24)、この診査自体が患者の不安を軽減する効果が高いのである12)51)。
前述したように、人前で無口になると口臭が増悪するため、思い切って会話すると嫌気状態が解消され口臭が軽快しやすいことを理解させる必要がある11)22)。会話中は口腔内ガスが換気され、唾液の分泌も促進されるため、さらに口臭が改善される。無口な状態が常態化すると口腔内外の筋活動が低下し、筋力低下や筋萎縮へと繋がっていく。このような状態が推定される場合には、発音訓練や舌筋、表情筋の筋肉トレーニングが有効である48)。
口臭外来を訪ねて来る患者には清潔好き、几帳面、内向的、努力家で人の和を大切にするという性質がみられることが多い7)。これらの性質が逆に口臭の悩みを増幅させ、努力しても結果に結び付かないという焦りを生じさせていると考えられる。治療に際しては患者に自己の性格を振り返らせ、そのような性格が口臭の悩みを長引かせていることをよく理解させる必要がある36)。そして、口臭の問題に促われ過ぎないこと、口臭に対する考え方を客観的なものに変えていくこと、ストレスへの対処法などを指導する52)。
人前に出て緊張すること、その結果として無口になることはいずれも口腔生理機能の低下を引き起こし、口臭を増悪させる。このような悪循環の病態をよく理解させ、可能な限り筋肉をリラックスさせ、精神的にもできればリラックスするように心掛けさせることも重要である21)36)。
患者が視覚的に実感する口臭要素として前述した「他人の仕草」がある(表6)。このような仕草や態度を自分の口臭を相手が感知した結果であると認識している11)20)21)22)。このような誤った思い込みに対して患者自身に振り返らせ考えさせる機会を与えることにより、その誤りに気づかせ正しい認識を持たせるようにすることは欠かしてはならない対処法のひとつである36)。
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