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考察1

1.口臭外来を受診した患者の特徴について

年齢別分布では高齢者が少なく、30歳台にピークがみられた。年齢層が比較的低いこともあって歯肉溝の深さは平均2.9mmと比較的低値であった。このことから、著者らの口臭外来を受診した患者では、口臭と歯周病の関連性は低く、歯周病の治療による口臭の改善効果は限定的であると考えられた5)。

実際、患者の多くは過去に歯科を受診した経験があり、歯石除去などの歯周治療を受けていた。歯科を受診した際に口臭についても訴えたため、口臭と関連すると考えられる歯周病の検査やブラッシング指導、歯石除去を受けた者が多かった。歯周治療により口臭が改善したかどうかと尋ねると、「改善しなかった」「ほとんど改善しなかった」という回答が大半であった。

口臭外来を知った理由のほとんどは、インターネット上で口臭に関する情報収集をし、著者らの口臭外来のホームページを見つけたことによるものであった。そのため、インターネットと接点の少ない高齢者が受診する機会は限定的と考えられた。また、口臭の特質として口コミによる情報伝達がほとんどないことも高齢者の受診機会を制限することになったのであろう。高齢者層における口臭の罹患率が高く、口臭があるのが当り前だと認識されているために、受療行動を抑制しているかもしれない。高齢になると社会生活が限定的となり、口臭を心配する場面が減少することも考えられた14)。

活動性の歯周病を有し歯周ポケット由来の口臭が発生している患者であれば、歯周治療により口臭が軽減する15)16)。一方、活動性の歯周病を有しない患者は歯周治療を受けても満足な結果が得られず、他の診査や治療を求めて著者らの口臭外来を訪ねてきたと推測された。

口臭を感知する主体が本人であるのか周囲の人間であるのかという点についてみてみると、過去のいずれかの時点において周囲が感知できる口臭を発生させていたいわゆる他臭症が178名中149名であった。一方で29名は口臭を指摘された経験を有していなかった。これらは自己臭症であったり、何らかの見聞により口臭という問題を知り自分にもその問題があるのではないかと心配するようになった集団であった。会話時に相手の口臭を感じて「自分も同じように臭うのでないか」と不安になった者も散見された。

初診時に口臭を自覚している患者は178名中122名と多数を占めていた。歯周病の程度が強くて強度の口臭が持続すると、口臭に対する感覚鈍麻が生じて患者自身では口臭を感知できなくなる。口臭を自覚する者が多数を占めたことから、自験例では歯周病はないか、あったとしても軽度であると考えられ、歯周組織検査の結果と一致した。

病悩期間についてみると半数が10年以上口臭に悩んでおり、1年未満の者は1割にも満たなかった。病悩期間の長い患者は長年一人で悩み続けてきた群とドクターショッピングを繰り返してきた群に大別できた。

前者は口臭について一人で悩み続け家族にも相談できず、悶々とした日々を送ってきた者が多かった。自己の口臭がどの程度であるのかを自ら客観的に評価することは困難であり、周囲の人間がどの程度患者の口臭に気付いているのかがわからず、疑心暗鬼になっていた。何とか口臭の程度を調べようと、多くの患者は種々の試行錯誤を繰り返していた17)。また、口臭に有効とされる市販の口臭の対策用品(オーラルリンス、ガム、シート、サプリメント、舌ブラシなど)を順番に試した経験を有する者も多くみられた18)。こういった努力にもかかわらず自力では口臭が解決できないと判断し、相当に思い切って口臭外来を受診したと述べる患者が多かった。

後者は口臭の原因として歯周病、副鼻腔炎、咽喉頭炎、胃炎などを考え、それぞれ歯科、耳鼻咽喉科、胃腸科を繰り返し受診していた。各診療科で口臭の原因として歯周病や胃炎などを疑われて検査や治療を受けたが、その結果は「全く効果がなかった」とか「その時は少しよくなったが、すぐに元に戻った」ということであった。また、診察の結果、口臭の原因となるような器質的疾患が見当たらず治療の必要がないといわれた者も多かった。「口臭なんて誰にでもあるものなので、気にする必要はない」と説得された者も複数いた。これらの診療科で口臭自体を検査された経験を有する者は少なく、官能試験や機器測定を受けた者も「口臭はない」「口臭はあるが軽微だ」と言われていた。「明瞭な口臭がある」と言われた者は一人もいなかった。このように各診療科において適切な診査、診断、治療が行われていることがほとんどない現状のため、患者はドクターショッピングを繰り返してきた。

病悩期間に関して注目すべき点は、20歳台の患者でも5年以上の病悩を有していた者が多数であったことである。発症時期が小~中学生の時点であった者が多かったためである。人格形成されるこの時期に口臭の悩みを抱え続けていて、その結果として性格や行動様式の変容をきたしたと訴える者も多かった。

これらの結果から自験例の平均像として、小学校高学年の頃に親や友達に口臭を指摘されたことがきっかけとなって口臭を心配するようになり、いつしか自分でも口臭を感じるようになった自己臭症患者の姿が浮かび上がってきた。

 

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