小児の歯と大人の歯は治療法が異なります
乳歯や生えてきてまだ年が浅い永久歯は、成人の歯(成熟した永久歯)とは異なる性質を持っており、その治療法も成人の歯の場合とは異なる部分が多くあります。簡単にいえば、むし歯になりやすくむし歯が進行しやすいという不利な特徴と、回復力に優れ治りやすいという有利な特徴をあわせ持っています。
むし歯になりやすく進行しやすい小児の歯
乳歯やまだ若い永久歯は、成人の歯に比べて歯の質が弱くむし歯になりやすいものです。歯の表面はエナメル質という人体で最も硬い組織で覆われており、その内側には骨と同程度に硬い象牙質という組織があることから、エナメル質と象牙質、骨などの硬い組織を「硬組織」と称します。ところが、小児の歯はカルシウム分が少なく、エナメル質や象牙質が未成熟で硬度が不足しているため、成長につれてカルシウム分が徐々に硬組織に取り込まれ、硬く成熟していく仕組みになっています。従って、小児の歯はエナメル質が未成熟で弱いため虫歯になりやすく、同時に象牙質も未成熟で弱いため内部でむし歯が進行しやすいといえるのです。
また、小児の歯にできた小さなむし歯を放置していると、短期間でみるみるむし歯が進行し、その結果大きな穴が開いてしまうケースがしばしば見られます。そのため、小児の虫歯はたとえ小さいものでも要注意で、もしもむし歯の疑いがある場合は早めの受診をお勧めします。万一診察の結果むし歯ができていた場合には、むし歯の進行を止め再石灰化を促す治療法か、あるいはむし歯を削ってレジン(樹脂)を詰める治療法のいずれかが状態に応じて選択されます。
まとめると、歯の質の弱い小児期さえ乗り切ることができれば、成人してからむし歯になることは通常ほとんどありません。もし成人後にむし歯が見つかったとしても、そのむし歯ができた時期は小児期だった可能性があります。また、成人後にむし歯が生じた場合は進行しなかったり進行が遅いため、急いで治療せずに様子を見るケースが多くなります。
神経が侵されやすい小児の歯にはMI治療を
乳歯や若い永久歯は、象牙質が薄く歯の中心にある歯髄腔(歯の神経、血管が入っている)が大きいという構造的な特徴があります。そのため、むし歯が象牙質に広がるとむし歯菌が簡単に歯髄腔に侵入していくことができるため、歯の神経に炎症(歯髄炎)が生じます。そして歯髄炎が生じると歯の痛みが強くなり、成人の歯では神経を抜いて治療を行うことになります。
一方、むし歯を削る際に取り残しがないように周辺の正常な部分まで削る、「予防拡大」を行うのが従来の治療法でした。また、型取りをして歯の詰め物(インレー)やかぶせ物(クラウン)を作る場合には形を整えるために(窩洞形成)、現在でもむし歯以外の部分まで削っています。しかしながら、小児の歯は象牙質が薄く歯髄腔が大きいために、むし歯が歯髄腔に達していないにもかかわらず周囲の部分を削ると神経が露出してしまう可能性があります。これに対して、むし歯の部分だけを削って治してしまおうというミニマルインターベンション(MI)という治療法が広まってきています。このMI治療であれば、小児の歯でも神経に影響を与えずに治療を終えることが可能です。
<< ミニマルインターベンション(MI)の詳細はこちらをクリック
年齢によってむし歯のできやすい場所に違いがあります
1~2歳にかけては上の前歯、2~3歳頃は奥歯のかみあわせの溝、また4歳頃にはいちばん奥とその手前の奥歯と接している部分がむし歯になりやすい箇所です。そして6歳前後になると、生えたばかりの奥歯の溝がむし歯になりがちです。
このように、むし歯ができやすい場所は年齢に応じて限定されるので、この部分を重点的に磨いてあげればむし歯を防ぐことができます。逆に、保護者がすべての歯を完璧に磨き上げようとがんばりすぎると、子供の方が嫌がって磨かせてくれない場合もあります。ですから、ポイントを押さえたケアを行うよう心がけましょう。
小児の歯髄炎の治療
上述の通り、乳歯や若い永久歯は成人の歯と比べて不利な点が多いものですが、一点だけ有利な点があります。それは、歯の神経に対する血液供給が豊富で栄養分が補給されやすいということです。そのため、歯の神経が虫歯菌に侵されて炎症(歯髄炎)が生じたとしても、適切な治療を行えば回復しやすいともいえるのです。
一方、成人の歯は歯髄炎が起こると回復しにくく、通常は神経を抜いて治療を行います。しかしながら、小児の場合には神経を抜かなくても 暫間的歯髄覆髄法 などによってむし歯菌を除菌すれば治癒するケースがほとんどです。
<< 暫間的歯髄覆髄法はこちらをクリック
MENU
|