「よく噛んで食べなさい。」いつの世でも食事時、親は子供にこう命じるものです。当然よく噛めば消化がよくなるため、しっかりと栄養が付き、丈夫に育つことを期待した親心でしょう。確かに、誰もが直感ではこの言葉を違和感なく受け入れることでしょう。しかし、“よく噛むと本当に丈夫になるのか”について正確に調べるためには労力のみならず、膨大な時間と費用が必要となるのです。
さて、ここに半世紀前の歴史的研究があります。それは、口の健康を保ちよく噛むことが全身の成長に大きく貢献するというものです。中でも注目すべきは小学校の児童を対象にした研究で、虫歯や歯肉炎をきちんと治療したうえ、よく噛んで食べるように指導した結果、体格がよくなるだけでなく頭脳も明晰になり、かつ病気にかかりにくい子に育つことが判明したのです。医学論文なので、もちろん専門的で耳慣れない言葉がたくさん登場しますが、わからない部分は読み飛ばしていただいて一向に構いません。一読の価値ある読み物ですから、ぜひ一度目を通してみてください。
この研究は九州大学医学部衛生学講座の神田三郎先生が、福岡県のある小学校の4年生を対象に6年生までの2年半の間、追跡調査をしたものです。研究対象となった児童は4年生全体の464人のうち、虫歯や歯肉炎はあるが他の病気はなく、体格や知能が中程度である120名です。彼らを「実験群(歯を治してよく噛むよう指導を受けたグループ)」と「対照群(特に何もせず現状を維持するグループ)」とにランダムに分け、研究を行いました。
また、「実験群」は虫歯や歯肉炎など口の中の問題を全て解決し、定期的に検診を受ける他、授業中の姿勢を正してよく噛むよう指導も行っています。その環境で小学校6年生の10月まで追跡調査した結果、興味深いデータが出ました。即ち両者の差が顕著に見られた調査項目と、逆に明確な差が現れなかった調査項目があったのです。結果は以下の通りです。
「実験群」の方が「対照群」より良好な結果となった調査項目
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・胸囲と体重
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・知能テスト(山本氏法、田中B式法、算数及び国語学力検査法)
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・疲労度(Zambrine・渡辺法、色素凝結保護能力示差法)
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・実験群は対照群と比べて冬季の衣重が軽く、病欠率・病欠日指数とも約半数だった。
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「実験群」と「対照群」ではっきりとした差が出なかった調査項目
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