むし歯はミュータンス菌(ストレプトコッカス・ミュータンス: Streptococcus mutans)が砂糖(グルコース)を分解して酸を作り、その酸が歯を溶かすことによって生じます。ミュータンス菌は口の中に棲む細菌ですが、血液中を流れて他の臓器に辿り着き、悪影響を及ぼす場合もあります。
大阪大学歯学部小児歯科学教室の仲野和彦教授らのグループの一研究を紹介します。ミュータンス菌の中の1~2割の曲者は表面にタンパク質を持ち、コラーゲンとくっつく能力があります。そのため、血液中を移動してさまざまな臓器に定着する能力を有しているのです。定着された臓器でどのような病気と関係するのでしょうか。以下に紹介します。
- 菌血症
- 感染性心内膜炎
- 脳出血
- クローン病、潰瘍性大腸炎
- 非アルコール性脂肪肝炎
抜歯や外傷で口の中に傷ができたり、口内炎が生じたり、歯周病で充血したりすると、ミュータンス菌がその部分の血管内に侵入し、血液とともに全身を流れていきます。本来は無菌状態である血液中に細菌が存在する状態を菌血症といいます。ミュータンス菌による菌血症は、他の臓器に定着して病気を引き起こすことにつながります。
心臓の内側を覆う心内膜や血液が逆流を防ぐ弁膜にミュータンス菌が住み着くと、感染性心内膜炎を起こします。その結果、発熱、頭痛、全身倦怠感、弁の損傷、敗血症などが生じて死に至る場合もあります。
脳血管が傷つくと、傷口から露出したコラーゲンの周囲に血小板が集まり、傷口を塞いで止血します。ところが、ミュータンス菌が流れ着いて付着すると血小板の働きを妨害し、出血が続くことになります。
腸管粘膜が原因不明の炎症を起こす病気には、クローン病や潰瘍性大腸炎があります。血液中を流れるミュータンス菌が肝臓にくっつくと、肝細胞からインターフェロン(IF-γ)などが分泌され、続いてαAGPやアミロイドなどの物質が誘導されます。これらの物質が腸管粘膜の免疫機構の不均衡をもたらし、クローン病や潰瘍性大腸炎を悪化させると考えられています。
お酒を飲まない人にアルコール性肝炎(アルコール性脂肪肝炎)と似た症状が現れる病気を非アルコール性脂肪肝炎といい、2段階で発症すると考えられています。第1段階ではメタボリックシンドロームによりインスリンが正常に働かなくなると、単純性脂肪肝が生じます。次の第2段階では活性酸素の影響で肝臓に炎症が生じ、脂肪肝炎へと発展します。ミュータンス菌が肝臓にくっつくと、インターフェロン(IF-γ)やメタロチオネインなどによる活性酸素の働きを亢進させて第2段階の反応を促進します。
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