第9回 日本口臭学会において研究発表を行いました
2018年7月28日・29日の2日間、第9回 日本口臭学会が塩尻市で開催されたなか、28日午後に口頭発表を行いました。
口臭症治療の前後におけるvisual analogue scale for anxietyの変動について
○樋口均也1),梅﨑さおり1),本田俊一2),前田伸子3)
1) 医療法人慶生会 ひぐち歯科クリニック,2) 医療法人ほんだ歯科,
3) 鶴見大学歯学部口腔微生物学講座
【目的】
口臭は目に見えるものではなく、口臭症患者が客観的に自身の口臭の程度を調べることは容易ではない。そのため、口臭外来において患者の口臭の程度を客観的に評価することは、患者の「知りたい」「調べて欲しい」という欲求を満たすことになる。口臭症治療によって口臭の改善を客観的に確認すれば、多くの患者は安心し満足する。しかしながら、一部の患者は客観的な治療結果に関わらず口臭が改善していないと訴えることがある。このように客観的な口臭の程度と主観的な口臭の程度が一致しない場合があり、口臭治療の成果を調べる際には、主観的な口臭の変化も評価する必要がある。本研究では、口臭症治療の前後における主観的な口臭の変動をvisual
analogue scale for anxiety(以下VAS-A)を用いて検討した。さらに治療後に主観的な口臭が著明に改善した群と改善しなかった群との違いについても併せて検討した。
【対象と方法】
2008年8月から2017年7月の間に口臭を主訴としてひぐち歯科クリニックに来院し、口臭治療を実施した224名(男性59名、女性165名、平均年齢39歳、11~69歳)を対象とした。治療開始時と治療終了時の直前の7日間の起床直後、昼食前、夕食前、就寝前にVAS-Aを患者に記入させた。また、治療開始時と治療終了時には官能検査や簡易ガスモニターであるBBチェッカーにて客観的な口臭を測定した。
【結果】
口臭症治療により、治療前と比較して起床直後、昼食前、夕食前、就寝前のVAS-Aの値はいずれも有意に減少した。また、口腔内ガスおよび呼気ガスの官能検査の強度が有意に低下した。口腔内ガスの強度はBBチェッカーでも低下していた。次いで、治療後のVAS-Aの改善の程度によって上位20%(45名)と下位20%(45名)の患者を抽出し、両群の違いを検討した。上位20%では全患者に見られたのと同様にいずれの時間帯においてもVAS-Aが低下していた。一方で下位20%ではいずれの時間帯においてもVAS-Aが増加していた。下位20%の官能検査は口腔内ガス、呼気ガスともに有意な低下を示し、BBチェッカーでも改善傾向を認めた。
【考察】
口臭症治療により、主観的な口臭の程度は客観的な口臭の強度と同様に改善が見られた。しかし、主観的な口臭の程度が悪化したと感じる群が少数ながら存在することも明らかとなった。主観的に悪化した群でも客観的な口臭は改善傾向にあり、主観的な感覚と客観的な計測値に乖離が認められる結果となった。口臭の軽減に伴い、自己の口臭に対する感覚が鋭敏となり、その結果口臭が悪化したと感じるようになったのではないかと推測される。このような患者群に対しては、口臭に関する特性の理解を深め、認知の再構成を行う対応が必要と考えられた。
|