第13回 日本口臭学会において研究発表を行いました
2022年6月12日、第13回 日本口臭学会がコロナ禍のためWeb上で開催され発表を行いました。
シェーグレン症候群の口腔症状:口臭との関連について
樋口均也1、梅崎さおり1、本田俊一2
1 医療法人慶生会 ひぐち歯科クリニック 2 医療法人ほんだ歯科
【目的】
シェーグレン症候群は唾液腺と涙腺を主な標的臓器とし、全身の腺組織などを攻撃する自己免疫疾患である。唾液腺が障害され得ることから、その症状としてドライマウスが生じることが多く、病的口臭症の原因疾患の1つである。しかし、シェーグレン症候群患者の口臭についての研究は少なく、その実態は明らかではない。本研究ではシェーグレン症候群患者の口臭を含む口腔症状や検査結果について調査した。さらに口臭を有するシェーグレン症候群患者と口臭外来を受診した口臭症患者を比較し、両者の異同を検討した。
【対象と方法】
2005年8月から2021年12月までの間にひぐち歯科クリニックを受診した患者を調査対象とした。カルテ記載をもとにしてシェーグレン症候群の患者を抽出した。その診断には米国リウマチ学会議―ヨーロッパリウマチ学会(ACR/EULAR)による一次性Sjoegren症候群分類基準を用いた。対照は上記期間に口臭治療を受けた口臭症患者(口臭治療群)とした。
【結果】
シェーグレン症候群患者は男性2名、女性56名の計58名であり、平均年齢57.3歳であった。主訴は口腔乾燥22名、口腔粘膜痛15名、口臭5名、顎下腺腫脹3名、味覚の異常2名、などの順であった。安静時唾液量は平均1.0ml/15分、刺激唾液量は平均2.9ml/5分、歯周ポケットは平均3.2㎜、シルマーテスト平均8.8㎜であり、カンジダ菌培養陽性者は19名であった。全員が口腔乾燥を訴え、口臭を訴えた者は30名であった。口臭を訴えた30名と口臭治療群662名を比較した結果、シェーグレン症候群に罹患して口臭を訴えた患者はいずれも有意に女性が多く、年齢が高く、安静時唾液量と刺激時唾液量が少なかった(p<0.01)。
【考察】
シェーグレン症候群患者の全員が口腔乾燥を訴え、約半数が口臭を訴えた。本疾患患者の多くは唾液分泌量が低下し、口腔乾燥が引き起こされる。唾液には抗菌作用があるため、唾液分泌量低下により舌背部に生息する嫌気性菌の活動が増して揮発性硫黄化合物が産生される。その結果口臭が生じる。また、歯周炎が生じ、歯周ポケットに生息する嫌気性菌の揮発性硫黄化合物産生につながり、口臭が生じる。このような機序でシェーグレン症候群患者に病的口臭が生じることが推測された。口臭治療群の多くは生理的口臭症であり、比較的若く、口臭の程度も軽い。一方で口臭を訴えるシェーグレン症候群患者は、年齢が高くて唾液分泌量が少ないという明確な違いがあり、その特徴が明らかとなった。
【結論】
シェーグレン症候群患者の中で口臭を主訴とする者は、口腔乾燥、口腔粘膜痛に続いて3番目に多く、約半数の患者は口臭を訴えた。口臭治療群と比較して、口臭を訴えるシェーグレン症候群患者は女性が多く、年齢が高く、唾液分泌量が少なかった。
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