第12回 日本口臭学会において研究発表を行いました
2021年6月5日、第12回 日本口臭学会がコロナ禍のためWeb上で開催され発表を行いました。
口臭症患者が有する口臭恐怖からの誘発が疑われた嚙みしめ吞気症候群69症例の臨床的特徴
○樋口均也1,梅﨑さおり1,本田俊一2 1医療法人慶生会 ひぐち歯科クリニック,2医療法人ほんだ歯科
【目的】
口臭は口腔内やその周辺から発生することが多いが、糖尿病、肝疾患、腎疾患といった内臓疾患由来の臭気もある。内臓から生じる臭気は血中に取り込まれて肺に移動し、呼気として排出され口臭として感知されるが、このような場合に治療を求めて口臭外来を受診する患者は少ないとの演者らの経験上の実感がある。これらの内臓疾患由来の口臭とは別に、噛みしめ呑気症候群がある。これは噛みしめ癖に伴う呑気が原因でゲップ、腹部膨満感、おならなどの症状が生じる機能性疾患である。口臭症患者の中には自身の口臭に対する強い不安から噛みしめ癖が生じ、噛みしめ呑気症候群が誘発されることもある。口臭症患者にこのような胃腸症状がみられると、患者は胃腸の問題が口臭の原因であると誤認してしまう。特にゲップが頻発すると、「ゲップが臭っている」「胃から臭気が出ているに違いない」と考えて、更に不安を覚え症状を増悪させてしまう。噛みしめ呑気症候群と口臭症との相関を示す報告は見当たらない。そこで本研究では、両者の合併がみられた122症例の中で、口臭を主訴とした69症例の臨床的特徴を分析した。
【対象と方法】
2008年6月から2020年12月までの間に呑気症状もしくは口臭を主訴としてひぐち歯科クリニックを受診した患者を調査対象とした。
【結果】
呑気を主訴としたものは179名、口臭を主訴としたものは558名であった。この中で呑気症状と口臭の両主訴を有していたものは1名のみであったが、呑気と口臭のいずれもの症状を有していたものは122名であった。この中で口臭を主訴としたものは69名であった。なお、69名の中にゲップやおならなどの呑気症状が胃腸の器質的病変に由来すると推測される患者は認められなかった。男性15名、女性58名と女性が多かった。また、40代20名、20代18名とこの両年代が多かった。呑気の症状はおなら58名、ゲップ30名、腹痛26名、腹部膨満感20名、胃液逆流・胸やけ14名、胃の不快感6名、腹鳴3名などであった。
【結論】
噛みしめ癖は強い口臭不安を訴える口臭症患者に高頻度で観察される。噛みしめによる舌の動きの停止は、唾液の嚥下困難につながり、結果として唾液嚥下時に空気を飲み込みやすくなる。噛みしめはまた、口腔の恒常性を維持する機能や自浄性を担う安静時における唾液の流れを低下させて口腔内に嫌気的環境をもたらし、嫌気性菌が産生する揮発性硫黄化合物を増加させることで口臭につながる。したがって、噛みしめ癖を行動変容させることは、吞気症状と口臭を同時に改善することにつながる。本研究で口臭症患者の中に呑気症状を有する者が一定程度存在することが明らかとなった。吞気症状は診察中にたまたま判明したものであるが、積極的に質問すれば他にも同様の症状を有する患者がいた可能性がある。口臭症の問診項目に吞気症状を追加する必要があると考えられた。
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